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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2557号 判決

東京信用金庫

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと認める。その理由は、当審における控訴人の主張に対し左記判断を加えるほかは、すべて原判決の理由と同じであるから、これを引用する。(ただし、原判決一一枚目裏二行目の「弁済の催告した」を「弁済の催告をした」と、同じく一〇行目の「譲受けることとしたが」を「譲受けたが」と、原判決一二枚目表一一行目の「原告」を「被告呉」と、原判決一三枚目裏八行目の「被告」を「被告呉」とそれぞれ訂正する。)

控訴人の本訴請求は、債務者たる訴外初沢武雄が債権者を害することを知りながら訴外会社との間に本件不動産の売買契約を締結し、被控訴人が訴外会社から本件不動産を譲受けた悪意の転得者であるとして、被控訴人との関係において前記売買契約を取り消し、本件不動産につき被控訴人より債務者初沢への所有権移転登記手続をなすべきことを求めるに在る。それ故本訴においては訴外会社から被控訴人への本件不動産所有権移転の事実自体が立証されなければならないところ、訴外会社から被控訴人への本件不動産所有権移転登記は存するものの、これに副う所有権移転の事実を肯認するに足りる証拠はなく、却つて、被控訴人は訴外金庫が訴外初沢に対する代物弁済の予約完結により取得した本件不動産の所有権を訴外金庫から更らに譲渡を受けたものであつて、ただその登記に当り、本来ならば訴外金庫が順位の劣る訴外会社の承諾をえて仮登記にもとづく本登記手続をしたうえ、訴外金庫より被控訴人に対する所有権移転登記がなさるべきであるのに手続の煩雑を避けるため、便宜訴外会社の承諾を受けその所有権取得登記を利用して訴外会社から直接被控訴人に所有権を移転した旨の登記を経由したものであること、原判決理由第二の二の(一)に記載するとおりである。従つてこの点において本訴は既に失当というべきである。なお付言するに、このようにしてなされた訴外会社から被控訴人への本件不動産所有権移転登記は、実際の権利変動の過程と如実に符合しないけれども、右所有権が被控訴人に帰属している現在の権利関係を反映するものとしてこれを無効とすべきでなくこの場合訴外初沢がかかる形式の登記をなすについては特に同意を与えた事実は認められなくとも、同人は最早その登記の抹消を求める正当な利益を欠くものであるから、右登記を有効とする妨げとならない旨の原判決の説示は正当である。そして被控訴人が自己の権利取得につき登記を経由している以上、その権利を取得するに至つた経過的事実の主張については必ずしも登記簿の記載に限定されるものでなく、この点に関する控訴人の所論は採用できない。

よつて、控訴人の本訴請求を失当として排斥した原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却

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